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【書評】 羊と鋼の森 〜プロの技術者に求められる能力〜

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北海道の山の中で育った主人公が、偶然の出会いからピアノの調律師となり、会社の先輩やお客さんとの出会いから、調律師として人として成長していく物語。2016年の本屋大賞受賞作。

縁遠い調律師の世界をのぞいているようで、とても新鮮だった。ピアニストの夢をあきらめて調律師になった先輩、見た目はそっくりだが全く異なる演奏をする双子の姉妹、バーでピアノを弾く男、天才や偉人は登場しないが、ピアノに関わる普通の人がたくさん登場するので、隣町の話のように思える親近感が心地よい。

同じピアノという楽器でも置いてある場所、演奏者、聴く人が違えば求められる音色や音質は違ってくる。学校、コンサートホール、マンションなどいろんな場所での調律シーンが出てくるが、ピアノの描写より、部屋の内装や温度、空気感、演奏する人の服装や雰囲気といった環境や人間の描写が多い。それだけ、調律師にとって環境や人間をしっかり見ることが良い調律をするためには大切なことなんだとわかる。主人公もお客さんのとって良い音と、自分の考える良い音の間で常に葛藤している。

技術者や料理人、弁護士などの能力や腕で稼いでいるプロフェッショナルたちは、大概これができる人たちなのである。技術は持っていて当然で、環境やお客さんのことを考えて、どの技術を選択するか、どの味付けにするかを適切に選ぶ能力を持っているから稼ぐことができている。自分もシステム開発を仕事にしているが、プログラミングはできて当然の世界である。いかにお客さんが使いやすい画面にするか、後から改造しやすくするか、トラブった時に影響を最小限にできるかなど利用者や運用のことを考えてシステムを作れる人がプロだと思っている。入社14年目の自分も改めて「お客さんや、周りの環境を見て仕事ができているか?独りよがりな仕事をしていないか?」と自問させられる作品であった。

ピアノの小説といえば「遠雷と蜜蜂」も少し前に読んだ。こちらは、若手のピアニストがコンクールを通して切磋琢磨する作品だ。 とても爽快な作品だったので、別の機会にレビューしてみたい。

この2つを割と短い期間で読んだからか、ピアノへの興味がちょっと出てきた。自分で弾きたいわけじゃないけど、ピアノの演奏を聴くと調律師のことだったり、ピアニストのことに想いを馳せるのが楽しかったりする。それはもちろん、私の頭の中で「羊と鋼の森」の主人公が悩みながら必死に調律する姿が浮かぶからである。これぞ、知らない世界を体験できる、小説の醍醐味だ。

「音楽とかピアノなんか全く興味がない」という人に読んでもらいたい一冊だ。